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7.第6回面接「人は変われる」  
  
ブリーフセラピーを生かした不登校生徒への対応〜
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 前回の面接のあと,私はA君の担任の先生と話をしてみました。

 A君は以前,「教室に入ると,みんなの視線が交差して,入り交じって自分に向かっているようでいやだ」ということを言っていたようです。クラスの全員が前を向いているときは,視線がみんな黒板に向かっているのでよいのですが,休み時間などは,視線が入り交じり,声もざわざわ聞こえてくるので不快感があるということがわかりました。


***************


 面接の日,いつものようにA君は12時ごろ学校へやってきて,一緒に給食を食べました。前回,給食を食べ過ぎてゲップが出るのを我慢していた様子だったので,次のように話しました。

「今日の給食はどうですか?」

「おいしいです」

「無理に急いで食べなくていいからね」
「ゆっくりと,自分の好きな順番に,好きな量だけ食べられるんだよ」

「はい」

「残してもいいし,足りなかったら,お代わりを言えばいいからね」

「はい」

「体調を崩したらいけないから,自分でコントロールしてね」

 これは,自分の行動は自分で選べるというメッセージです。文章にして書くとこれだけになってしまいますが,言い方や,強調する単語などを意識的に変えて,A君にメッセージが伝わるようにしました。


***************


 給食を食べ終わったあと,A君の今までの進歩ぶりを確認しました。
 事実,少しずつおどおどした雰囲気が消えてきていました。

「A君は,最初に会ったときとずいぶん印象が変わってきたね」
「話すとき,まえは先生の方を見られなかったけど,今はしっかり先生の目を見て話してくれるし……」
「まえは,家を出られないときもあったんだよね」

「はい」

「そのときを10段階で0とすると,今はいくつくらいになってるの?」

「5くらいです」

「あと半分なんだ。すごいなぁ」

「このあいだ話したけど,どうかな。卒業式に出られたら10くらいになるかな?」

「なると思います」

「先生もね,卒業式に出られるとすごいなぁて思うんだ」
「でも,その日だけ出るというわけにはいかないから。練習もしなくてはいけないし……」
「1つの区切りというか,けじめになっていいと思うよ。考えてみてね」

 A君はとても真剣に,考えながら話を聞いていました。しかしA君が返事をする前に,次の話題へと移りました。


***************


「ところで,昔ね。エリクソンというお医者さんがいたんだけど,その人は小児麻痺で,身体が動かなくなったんだ。だけど,なんとか回復して,そのリハビリのために一人で旅行をしていたんだ……」

 私は,精神科医ミルトン・エリクソンの有名な逸話を話しました。ボイラー工場での宿泊体験です。
 工場では,うるさい音で最初は人の話を聞きとれなかったけれど,一晩たって気がつくと,聞きとれるようになっていたという話をしました。
 これは,人間はその環境に慣れるということ,感じ方をコントロールできるということのメッセージです。

 そして,エリクソンの話とは関係ないように,話を続けました。

「そういえば担任の先生から聞いたんだけど,人の声とか視線とかが気になるの?」

「はい,なんかざわざわしているときとか,休み時間とか,気になります」

「そうなんだ」
「先生もね,中学生のころ,なんだか人が自分のこと見て笑ってるんじゃないかとか気になったことあったなぁ」
「でも,自分がそう思っていたり,感じていたりするだけなんだよね。自分の勝手な思いこみというか。自分がそう感じたからといって,事実がそうとはかぎらないよね」

「感じただけ……」

「でも,もし本当に笑っていたらどうかなと考えると,笑っていたからといって,それだけだよね」
「人がどう考えていても,それだけでしょ?」
「そうだ,1年生が体験学習をやってるんだけど,のぞきに行かない?」
「先生も行って挨拶しないといけないんだ」

「行きます」

 二人で,1年生のシルバー体験学習(高齢者疑似体験)を見学しました。A君はとくに緊張した様子もありませんでした。
 集団の中に入る準備としてやってみたことですが,成果はまずまずでした。


***************


 その後に校長室に戻ると,卒業アルバム制作委員の2名の生徒が,担任の先生とともにやってきました。アルバム用に,次回までに書いてもらいたいものの説明などを,ひとしきりしていきました。

 アルバム委員の生徒たちが教室に戻ったあと,A君に尋ねてみました。

「今は緊張した?」

「いいえ,大丈夫でした」

「大丈夫! すごいね」
「でもさ,もし3人だったらどう?」

 A君は少し考えて,「同じだと思います」と言いました。

「そうなんだ。じゃあ3人と4人の違いは?」

「ないです。」

「へぇ,ないんだ。まぁ,大した違いじゃないよね」

 このやりとりでは,「分離・結合」の技法を使っています。
 「分離」については第5回のところでも説明しましたが,ものごとを分けて考えることです。いっぽう「結合」は,分離の逆です。それまでくっつけて考えなかったものを,くっつけるというものです。

 A君は,大勢の人と会うと緊張するということだったので,少ない人数で緊張しなければ,それより少し多い人数では……と段階的に捉えさせて,「少ない人数が集まったものが大勢である」という新しい枠組みを与えました。正確には,大勢を分離して捉えさせたと言う方がよいのでしょうか。

 このときは,しばらくA君の好きな演歌の話などをして,面接を終了しました。

 
   
   
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